スーパーコンピュータと計算科学による未来予測

―線状降水帯の予測可能性について―

スーパーコンピュータの計算能力は年々向上していますが、現在日本で最速のスパコンは「富岳」です。2012 年に供用開始されたスパコン「京」は当時世界最速の性能を誇っていましたが、世界一の座にあるのは、ほんの数年でした。「京」の後継機として開発されたスパコン「富岳」は2021 年に供用開始されました。スパコン富岳は当時世界一の性能を誇っていましたが、現在はアメリカのスパコンに追い越されて、世界第二位の性能になっています。(コロナの感染拡大時期に、人が咳をした時の微粒子の拡散状態を可視化した画像がよくTV で放映されました。あのような計算は富岳の禅計算能力を駆使しないとできない計算ではなく、ほんの一部の能力で可能だったと推測されます)

因みに計算能力は15 桁の計算を1 秒間に行える回数で評価されます。スパコン{京}は1 秒間に1 京回の計算が可能で、富岳は40 京回、現在第1 位のアメリカのスパコンは100 京回の計算能力を誇っています。

人は 15 桁の計算を行うのに約1000 秒かかりますが、最高性能のパソコンで数千億回/毎秒、ワークステーションあるいはミニスパのンで数兆回/毎秒の性能を有しています。

スパコン富岳

話は変わりますが、今年も梅雨末期の豪雨で各地にひどい被害が出ました。特に最近関心を集めているのは、線状降水帯による限られた地域における短時間の豪雨による洪水や崖崩れなどの被害です。スーパーコンピュータによる線状降水帯の予測が可能になれば、人々の安心材料になることは間違いありません。線状降水帯の予測には、どのようなスパコン性能が必要とされるのでしょうか。筆者がスパコン「京」と多少ともかかわっていた2012 年の7 月に、九州北部に線状降水帯による豪雨被害がありました。当時の研究によ
りかなりの精度で線状降水帯の予測が可能になってきました。これはあくまで研究段階の成果でした。

スパコン「京」や「富岳」の使用は、全国の研究者が自分のやりたい計算を申請し、登録機関による審査の結果使用が可能となるシステムです。それ故、必ずしも災害予測にスパコン京を占有できる訳ではなく、10年前は線状降水帯による災害予測がスパコン京によってどれだけ可能となるのかを研究し、実証している段階でした。それから約 10 年後の現在、気象庁は「京」の約 1/3 の性能を持つ専用機を持ち、本年 5 月に下記の気象庁発表がありました。

気象庁発表 「線状降水帯」予測段階で発表 今日から運用開始(2023年5月25日 発表)

発達した積乱雲が次々と連なる「線状降水帯」が発生し災害の危険度が高まったことを伝える情報について、気象庁は運用の基準を変更して実際に発生が確認される前の予測の段階で発表することになり、25 日から運用が始まりました。従来より最大で 30分早く情報が発表されることになります。気象庁は 2021年から「線状降水帯」の発生が確認され土砂災害や洪水の危険性が急激に高まった際に「顕著な大雨に関する情報」を発表して安全の確保を呼びかけています。この情報について気象庁は「線状降水帯」による大雨が予測された場合に前倒して発表することになり、25日午後 1 時から運用が始まりました。

九州山口地方に線状降水帯が発生

先日来の山口県や秋田県などにおける災害発生に対して、上記の予報システムが今回の線条降水帯の被害予測にどれだけ効果を発揮したかと問われると、未だ不十分と言わざるを得ません。スパコンによる気象現象の未来予測には、問題としている地域だけでなく広く周囲の気象データ(計算領域内だけでなく境界条件の正確な把握)がどれだけ正確であるかが予測精度を高めるために重要です。洋上の定点観測網の充実や、陸上でのド ップラーレーダー網の整備など、まだまだ検討すべき課題があるように思われます。今後の予測精度の向上に期待したいと思います。

(USI 記)

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